「取材音源からの文字起こしは、すべての音声のを書き起こして完成」と思っている方もいるかもしれません。しかし、取材記事の編集には幾つかの種類があり、クライアントの要望に合わせて記事の品質をアップさせる必要があります。
文字起こしから編集作業の流れは、主に「素起こし」「ケバ取り」「整文」の3種類に分類されます。それぞれの違いについて理解しましょう。
「素起こし」とは「そのまま書き起こす」こと
「素起こし」とは、録音した内容を聞き、聞こえた音をそのまま一字一句正確に書き起こす方法です。
感嘆詞(「あのー」「えー」)を始めとした意味を持たない言葉や言い間違った言葉、重複している単語についても、全て文字に起こします。文章として読んだ場合に読みやすいとは言いにくいのですが、インタビュイーの特徴が出やすいので親近感が湧きやすく、取材現場がどんな雰囲気だったのかは伝わりやすいでしょう。
基本的に「素起こし」は、正確な記録や高い証拠性が必要な場合に要求されるケースが多いです。具体的には、カウンセリング、研究、裁判証拠、会話分析などが挙げられます。
「ケバ取り」とは「文章の情報密度を上げる」こと
「ケバ取り」とは文脈上意味を持たない言葉を削除して文章の密度を上げることです。
「ケバ」とは、「あのー」「えー」「ああ」「~ね」「~よ」などの言葉を指す用語です。人間は日常会話で、ケバ単語を自然と口にしています。その人の口癖であったり、相手の言った事に対する相づちであったりするケースが多いでしょう。話している時はあまり気になりませんが、あとで録音データを聞き返してみると「ケバ」が多用されていることでしょう。いざ、文字に起こしてみるとケバのせいで文章が冗長的だと感じることがあります。
「ケバ」を取り除くと情報密度が上がり、文章がスッキリして読みやすくなります。「ケバ取り」は、座談会、シンポジウム、会議の議事録などの情報量が重要視される記事制作時に特に有効な方法です。
「整文」とは「文章をフォーマルに仕上げる」こと
「整文」とは、話し言葉を書き言葉に直し、文体をですます調に整える方法です。
助詞の補充や、ら抜き言葉の訂正などを行うので、非常に美しく読みやすい文章に仕上がります。また、話者が明らかに間違った情報を話している場合も、訂正を行います。もちろん、「あのー」「~ね」などのケバも削除します。下記にいくつか例を挙げてみましょう。
・「いろんな」⇒「いろいろな」
・「~けど」⇒「~けれども」
・「起きれる」⇒「起きられる」
・「私、駅に行きます」⇒「私は駅に行きます」
「整文」は、ウェブ公開や会報等の印刷物、閲覧資料など、読みやすさを重視する場合に用いられることが多い方法です
「素起こし」「ケバ取り」「整文」の例文
①素起こし
えー、まあ、1年が過ぎるのなんてね、あっという間なんですよ。本当にね。お正月が来たと思ったら、もう桜の季節ですよ。そして、ゴールデンウイークだの梅雨だの過ぎたら、もう半年終わるでしょう?
②ケバ取り
1年が過ぎるのなんて、あっという間なんです。本当に。お正月が来たと思ったら、もう桜の季節です。そして、ゴールデンウイークだの梅雨だの過ぎたら、もう半年終わるでしょう?
③整文
1年が過ぎるのは、本当にあっという間です。お正月が来たと思ったら、もう桜の季節です。そして、ゴールデンウイークや梅雨が過ぎたら、もう半年が終わるでしょう?
終わりに
テープ起こしは、話者が発する言葉を正確に文字に起こす能力はもちろんのこと、文章力も必要な仕事です。クライアントの希望に沿う原稿に仕上げられるように、「素起こし」「ケバ取り」「整文」の違いをしっかりと理解して、実務で書き分けられるようにしましょう。